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私情と妄想と経験の海から産まれくるモノたちの墓場


by cogo3358

木漏れ陽の憂鬱 - 邂逅 3

ステージの奥にある扉がガチャリと音を立てて開くと、大柄にも見える男が上下供に黒のYシャツとパンツに身を包んで現れた。
こう言う場合、僕は演奏者と言うものはタキシードなどの正装をして出てくるものなのかと思ったが、その男な着こなしはYシャツの胸元を割りと大きめに開け、パンツもぴったりフィットさせると言うよりは幾分ゆとりを持ったスタイルだった。
ラフな中にもどこか厳粛な感じを抱かせる、不思議な身なりだ。

事前に聞いていた通りの坊主頭だったが、その坊主と言うのもまるでお寺の住職さんのように短く刈り上げられていた為、なおさらそう思ったのかもしれない。

男はピアノの横に立つと軽く会釈をした。
さっきお店に入った時には客席もそんなに居なかった印象だが、いつの間にやら気づけば満席に近い状態で、会社帰りのような服装の人、パーティに立席するような正装に身を包んだ人、年齢性別様々な人たちが一斉に彼に拍手を送る。

男は拍手を聴き終えるまで深々と頭を下げ、それが鳴り止んだと同時に顔を上げると純白のピアノに向かって姿勢良く腰掛けた。

そしてふっと一息ついた。

次の瞬間だった。

先ほどまで温和な空気を織りなしていた男の顔は一変、強張った面持ちになり、それでも眼は何かを捉えて離さない程の睨みを利かせて突然一心不乱にピアノを弾き始めた。

姿勢も先ほどまで背筋をピンと伸ばしたそれとは大きく変わり、深い猫背のような姿勢に変わった。
彼の弾くピアノには譜面のようなものも置かれていたが、男は明らかにそれを見ては居なかった。
この世ではない場所、を見ているかのような。
快、とも不快とも取れない初めての感覚だった。

こんなお洒落なバーだ、曲もしっとりとして大人な空気を感じさせるようなBGM的な楽曲で来るのだろうと思っていた僕の予想は大いに裏切られた。

畳み掛けるように右手と左手を激しく、10本の指の隅々まで神経を尖らせながら、曲調としてはもはやメタルやハードロックと言ってもおかしくないような激しいリズムと転調を繰り返しながら男はピアノを転がした。

男は休みなく弾き続ける。
組曲、のような感じなのだろうか。
一曲一曲の節目を感じないが、先ほどまで激しく恐ろしいまでに叩き続けた鍵盤を突然優しく、慈しむように静かな旋律に乗せ変えた。
表情も先ほどとは打って変わり、もう何かを睨みつける様子はないが、どこか悲壮感を感じさせる表情だ。

僕は何かに取り憑かれたように彼を見ていた。
そして、先ほどまでの会う前の気持ちよりもより一層、その男に恋焦がれ、この目の前の異端なるピアノマンに魂を鷲掴みにされた。
例えばそこに性的な何かはあるかと問われれば形容しがたいが、それを超越した域で僕は一気に彼にのめり込んだ。

この男は、何を思い、何を感じ、今ピアノと向き合っているのだろう。
そして、同時に思うことがあった。
この男は、何にいったいここまで追い立てられているのだろう、とも。
一歩間違えば、死の香りさえも香って来そうな彼の佇まいに僕は胸が締め付けられるような気持ちさえした。

ピアノ、と言うその楽器をこの男が弾くことによって僕の心に何かが押し寄せる。
怒りや、哀しみ、やるせなさ。
そして更には愛、それに纏わる様々な心模様のようなものまで。

不思議だった。
未だ持って僕には恋人と言うような存在が居たことはなかった筈なのに、なぜか僕はそれをその瞬間、愛だと感じていた。
錯覚だったかもしれない、が。

仮に錯覚であったとしても、その人間には本来「わかるはずがない」、「あるはずはない」と言うものを呼び覚まし、それらを覆すのに充分なほど、この男のピアノには魔性があり、実に人間的な説得力があった。
ピアノだけではなく、それはもはやこの男が持ち得る人間性であり、本能に近いものだったかもしれない。

激しさを増し、静けさも刻み、弾き始めた彼のピアノも一通り様々な感情を撫で回し、掻き乱した頃、彼は最後の鍵盤を右手で叩いた。
ピーン、と言う高音が店内を包んだ。
# by cogo3358 | 2017-03-24 02:30

木漏れ陽の憂鬱 - 邂逅 2

待ち合わせの会社前に着いて、僕は待ちぼうけをしていた。
時刻は21時を経過した頃、君島先輩は予定時刻よりもだいぶ遅れての到着だった。
半分の袖だけを通したジャケットの反対にもう半分の腕を押し込めながらこちらに走って来た。

「いや〜、悪い悪い。
お、何だよ中嶋、髪までサッパリさせちゃって。気合い入ってるじゃん。」
「いえ、何か高級なバーって聞いたので、さっきまでのボサボサ頭だと何か気後れして…」
「照れるな照れるな。そいじゃ、噂のピアニスト様がいるバーに出発だな。」
そう言って僕の肩をポンと叩くとニヤニヤと笑った。
僕はやはり、見抜かれているのだろうか。

そのバーは会社のビルからそう離れていない場所にひっそりと入り口を構えていた。
バーの名前は「the end」。

ちょっとした洞窟を抜けるような下り階段を降りて木製のモダンな押し扉を開けると、中は郊外のガソリンスタンド一件分はありそうな広い造りだった。

壁はレンガ造りになって居て、無駄な照明は一切省きつつもキャンドルなども多用しながら絶妙な関節照明で持って店内のムードを一際美しいものにさせて居た。

店内に所狭しと並べられた丸型のテーブルにはだいたい四脚ずつの椅子が配置されていて、その造りもどこかヨーロッパなど西洋の感じを醸し出す味のある調度品ばかり。

入り口から向かって真正面に、メインの床よりも少しばかり浮き上がった小さなステージがある。
そこには純白のカラーリングが施された高級感溢れるピアノが置かれていた。

どうやら、まだ件のピアニストは不在らしい。

僕たちは厨房から現れた流れるような美しい髪をしたロングヘアの女性スタッフさんに案内されて、ステージの真横に置かれたテーブルに着席した。

「川野ちゃん、先週ぶり〜、今日も相変わらず美しいね。」
「あらあら、相変わらず御上手で。君島さんがこんな時間にウチに来られるって事は、また奥さんを怒らせるような事でもしたんですか。」
「鋭いねぇ〜。女の勘ってやつは凄いよ。自分が悪いっちゃ悪いんだけどさ、帰れる家がなくてよ。川野ちゃん、今晩泊めてくれない⁈」
川野ちゃん、と呼ばれたその女性スタッフと君島先輩は顔馴染みのようで、そんなやり取りを繰り広げながら彼女は微笑みを浮かべ、僕たちにお洒落なグラスに注がれた水を差し出した。
グラスを置いた後、彼女は去り際に振り返り君島先輩にこう言い放つ。

「うふふ、遊び慣れた男って言うのもそれはそれで魅力的ですけど、私こう見えて見持ち堅い人が好きなんです。だから君島さんはお、こ、と、わ、り。」
そう言うと彼女は含み笑いを浮かべながら軽くウインクを一つして厨房に戻って行った。
君島先輩は「あ痛〜」と言う感じに頭を押さえながら苦笑いを浮かべた。

「どう、彼女。美人だろ?」
得意気に君島先輩は僕の肩に腕を回しながら彼女を勧めた。

「モデルさんみたいに綺麗だし、先輩に対してあんな風にクールに振る舞えるのが素敵ですね。」
僕はテーブルに置かれた水を一飲みしながら応えた。

「ま。それでも今夜のお前のお目当ては、貴美男ちゃんだもんな。」
貴美男ちゃん、それが噂のピアノマンの名前らしい。
川野さんには申し訳ないが、ご名答だった。

特に注文もしていなかった気がしたが、いつもの流れなのか、しばらくすると川野さんはこれまたお洒落なグラスに輝くハイネケンのビールを二杯、運んで来た。

「はい、こちら。いつもの。」
「ありがとよ〜。今日、貴美男ちゃんまだ来てないの?」
君島先輩の問いに彼女は耳に掛かった髪を掻き上げながら応える。

「いらしてますよ。今は控え室の方で演奏前の最終調整ってとこじゃないですか?
今日の彼、少しピリピリしてましたから、今夜の演奏、凄いことになるかも。そう言う日のあの人の演奏、いつも神掛かってるから。」
彼女はまた意味あり気に微笑んだ。
そしてそのやり取りを長らく傍観して居た僕に初めて語り掛けた。

「あなたは、君島さんの同僚さん?」
「あ。あぁ、はい。中嶋と申します。君島先輩は僕の会社の上司で、とても良くして頂いてます。」
クールビューティな女性に突如として話題を振られた僕は驚いてドギマギしながら応える。

「中嶋さん、ね。初めまして、私この店を取り仕切って居ります、川野由子(かわのゆうこ)と申します。」
そう自己紹介すると、美しい姿勢で頭を下げた。

「取り仕切る…って、店長さんってことですか?カッコいいなぁ。」
性的な意味では女性、と言う人にその衝動が向かない僕だが、彼女の出で立ちや振る舞いにはさすがの僕もそう言わざるを得ない説得力があった。

「そう言うことになりますね。the endへようこそ。今夜は楽しんで行って下さいね。」
得意気に微笑を浮かべると、彼女はまた厨房へ下がって行った。

「川野さん、まだ若いのに店長って凄いですね。」
「川野ちゃん、ああ見えて歳は43だよ。」
「えぇ⁈」
僕は飲み始めたビールを一瞬吹き出しそうになった。

「働く女は美しいって言うが、川野ちゃんのあれはもはや魔性の域だよな。」
君島先輩はビールを片手に揺らしながら少し遠い目でそう告げた。

僕は一瞬、その先輩の未だかつて見た事がない瞳に戸惑った。
もしかしたら、君島先輩と川野さんの間には、かつて何かがあったのだろうか。

そうこうしている内に、店内の照明が先ほどよりも薄暗くなった。
それと時を同じくして、ステージに灯る光が強みを増した。

僕は、いよいよその時が来たのだと、息を呑んだ。
# by cogo3358 | 2017-03-24 02:27

木漏れ陽の憂鬱 - 邂逅 1

木漏れ陽の憂鬱

ー邂逅


僕はどちらかと言うと遅咲きのゲイ・セクシャルで、それを自意識として深く自認しつつも、どうしてもこの国の社会に迎合しつつ周囲の視線・体裁・世間体と言うものが気になって仕方がなかった。

そんな折、会社の上司に連れられて行った少し高級なバーで専属ピアニストとして演奏して居たのが貴美男だ。

僕は社会的にオーブンに出来ないその性癖(と言うのも何やら語弊がある気がするが)を抱えつつも毎日毎日ごく平凡かつ有り触れたルーティンワークに勤しむしがないサラリーマン。

退屈な日々も長く生きていればめっけものとでも言うべきか、ある日僕の上司がカタカタとデスクトップ・パソコンと睨めっこをしている自分にこう言うのだ。

「中嶋くんさぁ、4丁目にすっごいお洒落なバーがあるの知ってた?」
「あ、そうなんですか?僕、会社終わるといつも直帰しちゃうか飲みなら下北沢なので、この辺の飲み屋さん全然知らないんですよ。」

中嶋、とは僕のことだ。
中嶋勝(なかじままさる)、その名の通りには人生運ばず、何かに、または自分自身にさえも勝利した事がないようなタイプで、流れのままに人生をのんびりと生きて来た。
見た目も共すれば俗に言うオタク、と称され馬鹿にされても間違いないであろう突出した華もなく、とてもありふれていて、何かに埋没気味な冴えない風貌だ。

「今夜暇なら、一緒に飲みにでも行かない?」
「先輩が僕をわざわざ飲みに誘うなんて珍しいですね〜、何かあったんですか?」

その返しを待ってましたとばかりに上司・君島(きみしま)先輩は瞳を輝かせながら僕の隣のデスクの椅子に、まるでアニメに出てくるような凄腕の怪盗がやりそうな身の翻しで座った。
「それがさ中嶋くん、家内にこの前手を出しちゃった女の子の事がバレてカンっカンでさぁ…しばらく家に帰れそうもないんだよ。」
そこまで言うとガックリと机に突っ伏した。

この人、君島先輩はサラリーマンにしておくにはもったいないのではないかと言うぐらいの男前なのだけど、いかにもプレイボーイと言うルックスそのままに、妻子持ちでありながら度々若い女の子を捕まえては夜遊びに耽り、その度に奥さんから帰宅禁止令、もしくは「実家に帰らせて頂きます」と言う男としては耳が痛いあのテレビドラマの定番のような三下り半を突きつけられる流れを自ら作り出す、ちょっと救いようのない人だ。

その度に僕のところへやって来てはこうやって慰めの飲み会を自ら企画考案し、そこに僕を居合わせようとする。
僕は僕とて若干好みの男であるこの人とベッドの上ではないにしても一夜を供に出来ると言う密やかな楽しみが満ちるのでなんだかんだとOKしてしまう。

「またですか〜…懲りずによくやりますね、先輩は。それでも長く続いてるんですから逆に奥さんの懐の広さったらないなと思いますけど。でもそこに甘えてると女はいつかそっぽ向きますよ。」
僕が女心の何を知っている、と言う訳ではなかったが、一般論から考えても正論であるそれを告げた。

「おっ。さすがは中嶋くん。女心が分かってるね〜。抱いてやろうか?」
「…はぁ。はいはい、それではいつか先輩の徹底したテクニックの元にひれ伏せたらと思いますよ。」
僕はため息混じりに相変わらずデスクトップのパソコン画面だけを見ながらさめざめと返した。
この人には僕がゲイである事がバレてしまってるのだろうかと度々不安になるこんなやり取りがあるが、僕は未だ持って会社内でそのような噂が立ったことはない。
いや、ない…はずだ‼
その為に格別興味もない、と言うとこれまでのそれで知り合った女性たちには申し訳が立たないが、様々な合コンや飲み会にも率先した素振りもそのままに付き合いで行ったんだ。

「ふふふ、まあでも今夜は俺に抱かれる可能性よりも、坊主のイケてる兄さんに本当に抱かれてしまう可能性もあるけどな。
そのバーのピアニスト、ホモなんだってよ。」

だいたいの事には動じないタイプの僕だがその言葉には思わずガタンと机を揺らす勢いで君島先輩を見つめ返してしまった。
よほど呆気に取られた顔をしていたのか、はたまた僕の隠された部分がオープンになりたいと悲鳴でも上げているような顔でもして居たのだろうか、逆に怪訝な顔をされてしまった。

「何だよ、お前もしかしてホモフォビアとかだったっけか?」(用語解説は最下層参照)
「あ、いえ、別に。ただ僕、本当に正真正銘ホモ…と言うかゲイの人って会った事ないんで、驚いてしまって。」
「このご時世にホモでもゲイでも1人2人テレビ付けりゃ見れんだろうがよ、可愛いね〜、中嶋くんは。」
そう言って先輩は僕の頭を小突いた。

確かに女装をしたり、ショーパブなどで商売として華やかに着飾ってるゲイは見かけたことはあるが、それはそれとして僕は同じ人種でありながら彼らに惹かれることはなく、むしろそれもまた一種のエンターテイメントとして見てしまっているので仲間意識を持ったことはなかった。

高級バーでピアノを弾く坊主頭の男。
僕は今夜初めて出会う事になるであろう同性であり異性のその突飛な肩書きを持つ、まだ見ぬ男に心躍らせた。
心なしか、仕事を仕上げる速度もいつもより早まっていた。

僕は今夜起こりはしないかと言う何かに胸を馳せながらパソコンでの作業も外回りの仕事も急ピッチで仕上げ、アフター5を満喫していた。

君島先輩は僕よりも位が高い役職で、プレイボーイな面とは別にとても仕事が出来、それでいて周りからの人望も厚いのでなかなか仕事が終わらない人だ。
そのギャップがまた女の子たちの人気に一役買っていることも間違いはないだろう。

僕は先輩の到着が遅くなる事を知り、初めてデートに出掛ける中高生のような気分で髪を散髪したり、普段ならそう行くこともないCDショップに足を運び、これまた普段決して進んで聴くことはないジャズやクラシックのピアノ曲の視聴機を聴いて回り気分を高揚させて居た。

人生で初めて出会う自分以外のゲイ・セクシャル。
その時の僕にはもはや考えも及ばなかったが、今思い返せば、僕はまだ会ってもないそのピアノマンに妄想の中で既に恋をしていたのだろう。

-邂逅 2へつづく

用語解説…
ホモフォビア - 主に男性同性愛者に対する嫌悪感が先行し過ぎてそれらを一切受け入れることが出来ない精神状態、もしくはその症状などを指す
# by cogo3358 | 2017-03-21 22:15
『木漏れ陽の憂鬱』

ープロローグ

「俺には愛なんて分からねぇよ。何せ実の親は俺を捨ててどっかに行っちまったんだ。幼少期に、親、もしくは近しい大人からその子にとっての体感で「愛」またはそれらしきものを与えられた記憶があるか、ないか。これはその後の人生で人を愛せるかどうか、もっと言えば人を受け入れられる度量の広さに深さ。それとかに非常に大きく関わってくる問題だと思うぜ。俺は知らねぇんだ。だから奪うんだ、愛を持ってそうな奴から根こそぎな。それが俺の人生なんだよ。奪っても奪っても、まだ俺には何も見えちゃいねぇがな。もはや奪っているのが俺なのか、はたまた相手なのか、それさえも分からなくなって来た。
いい歳した男がよ、恥ずかしい限りだぜ。」
そう吐き捨てるように言いながら意味深なため息を一つついて、その男はセブンスターに火をつけた。

細く切れ長な彼の眼には僕の見間違いでなければうっすらと涙の膜が張っているようにも見えた。
それきり、彼は何も話さなくなった。
僕はただ困惑した表情と少し脅えた表情を浮かべながら、それでもなお彼に惹かれ続けるこの謎めいた感情を持て余して秋の夕暮れ時のベンチに彼と並んで座って居た。

彼の名前は、神田貴美男(かんだきみお)。

貴美男は今年で30歳になる、今巷をほんの少しばかり騒がせている話題のピアニストだ。

自ずと公言はしていないがゲイ・セクシャルであることを何の気なしに話す潔の良い男で、性格もさっぱりしつつも人情があり、どちらかと言えば飄々としているタイプだが、一度演奏を始めると空間を支配する程のエネルギーを放出し、あらゆる感情をピアノと言う媒体に乗せ、時に狂気も秘めたような指遣いと表情、そしてこれはどう形容したら良いのか芸術的センスと言うものが皆無に近い僕には分からないが、端的に言えば彼にしか弾けないであろう音色を叩き出す天才肌だ。

貴美男、と言う名前からは何だか長髪で背のスラッとした絶世の美男子と言うイメージが伺えるが、実際の彼は背の丈175程で格別鍛えてもいないが学生時代に水泳をやって居たと言う事もあり非常に男らしい身体つきで、髪も基本的に坊主頭(しかもファッション的にお洒落な坊主と言うよりは本当にお寺で念仏を唱えてくれそうな程に短く刈り上げた僧侶のごとく坊主頭)で、まるでそれが彼のトレードマークかのようでもある、耳掛けの部分が雷の形をあしらった風変わりな黒縁の眼鏡を掛けている。
チェーンスモーカーでもあり、何かと言えばセブンスターの煙草を咥えている。

孤児院の育ちだと言う彼はそれなりに複雑な境遇を抱えて居た。

貴美男と言う名前も、実際に彼を産んだ両親が授けたのではなく、彼に世話を焼き、精一杯の愛情を注いだ育ての母と言っても過言ではないスタッフの仁科幸恵(にしなゆきえ)が名付けたもの。

春から夏に掛けての蒸し暑い昼下がり、彼は炎天下の中、後にそこで少年期までを過ごすことになる孤児院の入口に置き手紙も何もなく、ただ心ばかりにとでも思ったのか、ヨレヨレになった福沢諭吉の紙幣を数枚と供に彼の身体は置き去りにされて居た。

発見があと少し遅ければ新生児だった貴美男の体力は持たず、今日の彼はなかったかもしれない。
この世に出生を受けて間もなく、彼は九死に一生を得たのだ。

僕が貴美男と知り合ったのは僕が25で彼も同い年の頃だった。

→第一章『邂逅』へつづく

# by cogo3358 | 2017-03-21 05:39 | ラブ/ロマンス

御挨拶

こんにちは(・∀・)

cogo3358です。
いや、本当の名前でもペンネームでもなくて、このブログ作る時に決めたIDがコレだったからそう名乗るだけですけど(笑)

ようこそDirty things is a Beauty thingsへ。

こちらは私が趣味で書いた小説めいたものを気ままに掲載して行くブログになりました。
(かつては私の心の闇をぶちまける為の非常に質の悪いブログだった訳ですが。苦笑)

私はしがない同性愛者で、何か色んな名前で頻繁に歌も唄ってる、何でもやりたがりな中途半端な困ったさんです。

でも人生一度きりだからやりたいことはやらなくちゃっ!てことで、気長にやらせて下さいまし。

それではDirty things is a Beauty things、はじまりはじまり~٩( ᐛ )و

第1作目は私の記念すべき長編『木漏れ陽の憂鬱』だよ。

勝と貴美男の数奇な人生に幸あれ!!

# by cogo3358 | 2017-03-21 05:28